Satoru Matsuura [BEST 5 Music of 2014]

BEST 5 Music of 2014

Caribou – Our Love

ポスト・インターネット、気泡のようにSNSを行き交う匿名的なエレクトロニック・ミュージックの趨勢に“肉体性”を見出すには、中心部へ集積される情報量過多と、中心部ではない場での感覚時差とでもいえばいいでしょうか、そういった何かに目配せしないといけない趨勢が極まったような気がしました。

かのフライング・ロータスがあそこまで過剰にテンションを張り詰めてしまう作品を創り出す状況におきまして、USでのオバマの急速な信頼度の低下は一例としましても、グローバリズム、高度資本主義とはそもそも、“システム”としての万能性はなく、“スキーム”としての構成の内側が再考されてきたのでは、という想いを得ました2014年だったといえるかもしれません。「既存性の崩落」や「死」たるテーマへと深く潜り込むことで、帯びる光もあるのでしょうが、パラレルに複線的に価値の変位が激しい状況下では、呼応して、マッドで大きな声の音楽が倍化されるというような向きもありもします。

ダン・スナイスのソロ・プロジェクトたるカリブーが新作『Our Love』で見せた音風景とは、肌理細やかに流れるような、ほんのささやかな音の粒子と小さな声で、それが逆説的に染み入りました。タイトルとジャケットといい、FOUR TETの2010年のユーフォリックな『There Is Love In You』を彷彿とさせながら、マシュー・ハーバートのEPシリーズにも似たようなものを感じます。それでいまして、ヘッド・ミュージックとしてだけではなく、滑らかにフロアをヒール(治癒)するような音の編み込み方にも唸らされました。余談なものの、筆者としては、飛行機の機内放送の中のCaribouでスムースにチルできるなんてことは初めてでした。

Basement Jaxx – Junto

ベースメント・ジャックスに関しては、かの90年代の「Red Alert」の衝撃を憶えています身からしますと、ここまで一線でサヴァイヴするアクトとは、といいますと感慨深くもありますが、途程にて、グライムやバレアリック・ハウス、ソウル・ミュージックなどとの共振を含めまして、時代に見事にリンクしている訳ではないものの、確実に美しいシンクをしてくるところは流石でした。“ハレ”だけじゃない、しなやかにセクシュアルな要素がディープに絡み合ったこの『Junto』然り。

Polar M – Hope Goes On

ポストクラシカル、ポストミニマルの一時期の隆盛がじわじわと分化します中、京都在住のPolar Mの悠遠なサウンド・グラデーションにも持っていかれました。気象変化の激しいこの時世、“天気読み”がしにくい中で、音楽を通じて、天気模様を確認できるような、そんな抽象的な感覚がトレースされるようで、ポスト・アンビエント・ミュージックの折り目を感じもしました。

Les Sins – Michel

Les Sinsはポスト・チルウェイヴの気鋭、Toro Y Moiのダンス・ミュージックのための変名、新しいプロジェクトで、これがチープといいますか、いい意味のラフさで非常に良かったです。80年代的なサウンド・リヴァイバルの一端を彷彿させながら、ノスタルジアを過去に保存しておくのではなく、今の時代の中で軽やかに“遊んでいる”というところも気負わず対峙できました。また、個人的には、現在もなお、多くの方に復活が望まれるオーストラリアのアヴァランチーズに視た音像に近いような断片も仄かに感じたのも大きかったかもしれません。

Photodisco – SKYLOVE

最後に、Photodiscoに触れるにあたりまして、選出について補足しておきますと、このたび選出しました5枚は、本当のニューカマーというより、ある程度キャリアを重ねていますアーティストであり、過激で加圧的な作品ではないと言えると思います。筆者として、2014年を振り返りました時に、エレクトロニック・ミュージックとしてはやはり先述のフライング・ロータス、またはArca、そして、来年2月リリースのフル・レングスも楽しみなRomareなどのトラックも興味深かったのは確かです。

しかしながら、巷間に難事が多く、ヘビーなこの年にマッドでプログレッシヴな音楽で“適合”するのも勿論、良いと思いつつ、あえて、その先もずっとなだらかに聴けるような、また、聴き手側がそのときの気分をそのままに反映できるようなそういう作品を、という文脈を含めました。Photodisco『SKYLOVE』も含めまして、こういった音楽は完全には現実逃避、幻想的な何かでもなく、音像から受け取るイメージは集団的無意識の代弁的な表象でもなく、「個」に内在化、還元されてゆくと思うからです。


Satoru Matsuuraプロフィール
Writer
今年は、Arovaneの取材、記事で初めてpeak silenceに参加させて戴き、嬉しい限りでした。生きていますと、なにかと不思議な縁が巡るものです。

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