ドイツのArovaneこと、Uwe Zahnが求めて続けてきた音像というのは、ジャーマン・ミニマルを巡るオルタナティヴな短史だったのかもしれない。80年代の終わりからのミュンヘンのS.A.M.との創作関係性、90年代以降のベルリン期のサウンド。彼のサウンド・テクスチュアとはあくまでミニマルでありながらも、ヒップホップのビートと〈Warp Records〉系のアーティストの一部にあるような幻惑/好戦性を行き来するドープな何かとの共振がむしろ、チャームでもあった。このたびは、2003年以来となる来日公演を前に、新たに行なった彼とのメール・インタビューでの言葉も含めて、改めて彼の来日を祝うべく、簡単ながら、来歴を追いたいと思う。
私はずっと音楽を作ることは辞めていない。でも、音楽ビジネスにおいて休息はいるんだ。
15、16歳から音を具体的に作り出し、構成などを考えはじめ、Kraftwerkの「Autobahn」がラジオから流れると、そのドップラー効果とシンセサイズされた車の音に魅了されたというのも彼らしくて、筆者も好きなエピソードの一つだ。
Aphex Twinの思わぬ13年振りの2014年の新作『Syro』が“彼そのものでしかなかった”ように、Arovaneの音にも普遍/不偏の響きがあった。比較対象とは精緻に違うが、例えば、UKのキエラン・ヘブデンことフォーテットが迅速に、都度のワークスで彩味を変え、進んでゆくのと比して、彼はあくまで寡黙にマイ・ペースに活動を進め、フロア以外でも愛される音を紡ぎ続けてきた。
04年の『Lilies』はたおやかながらも、クリック・ハウス色を持った曲もあり、アクチュアルにリッチー・ホウティン、もしくは別名義たるPlastikmanとのシンクする要素も当時、筆者としては伺えもした。美しいダウン・ビートの「Tokyo Ghost Story」という曲が入っていたなどもあり、日本でも特に認知度が高い作品のひとつだろう。また、〈Compost〉界隈のJazzanovaなどに備わっていた硬質なメロディアスな要素があったのも彼の存在性をより高めたといえる。しかし、『Lilies』では荘厳で物悲しさも見えたアンビエント曲「Good Bye Forever」が最後に収録されており、具体的な表明はなかったものの、Arovaneとしてのキャリアに幕引きをしたように思えた。
なお、「Good Bye Forever」という意味深いタイトルを含んだ曲には2013年の取材で振り返って、こういった言及をしている。
「永遠はどれくらいの長さなのだろう?確かに、私は長い間さよならを言ったし、旅行を楽しんだり、人には会ったり、時おりは演奏もしていた。この曲はセンチメンタルだと思う、でも、新しい始まりでもあったんだよ。」※1
音楽そのものへの情熱を決して失った訳ではなく、当時のことを彼は海外メディアのインタビューでは以下のように答えており、新たに行なったインタビューでもこうした言葉を残している。
「2003年から2004年の頃、私は音楽業界にうんざりしていた。だから、ビジネスから休みを置いて、完全に違う何かに打ち込んだ。スタジオ機器の一部を売却して、出力が大きく、軽量なモーターバイクを買ったんだ。それで南フランスにも旅行に行ったし、ドイツも旅したよ。」※2
「ええと、私はずっと音楽を作ることは辞めていないし、でも、音楽ビジネスにおいて休息はいるんだ。当時の判断は良かったと思っている。なぜなら、思考の整理ができたことで、音楽産業への姿勢が変化したから。今、ライヴのための何のプレッシャーもなく、サウンドデザインを固め、新しい音楽を書いている。今はサウンドデザイン部門のフリーランスとしてやっているのだけど、自身にとってそれは自然なことで、自分の音楽とサウンドデザインは元々、密接に結びついていたから。」
要は、自身にとって大切な音楽から一旦、距離を置く必要性があり、そこから再び音楽を作る活動に戻り、サウンドデザイナーとしての活躍する今へは断線はないということだ。
ここで、“サウンドデザイン”という言葉にピンと来ない人も居るかもしれないので、補足をしておくと、映画から派生した言葉で、ウォルター・マーチという音響技師がフランシス・フォード=コッポラの『地獄の黙示録』で音響を担当した際に名付けた由来がある。現在では音楽とは舞台、アートや多くのフィールドがクロスオーバーするのもあり、サウンドデザインというのもまさしく“音のデザイナー”として特定的な定義を越えてきている。※3
※1 astrangelyisolatedplaceより
http://astrangelyisolatedplace.com/2013/10/03/the-return-of-the-electronic-architect-an-interview-with-arovane/
※2 Headphone Commuteより
http://reviews.headphonecommute.com/2013/10/17/interview-with-arovane/
※3 サウンドデザインが作る新しい世界 森永康弘インタビュー CINRA NETより
http://store.cinra.net/static?content=interview-morinagayasuhiro1
なお、注釈のない彼の言は2014年10月に行なったメール・インタビュー内でのものです。
Text & Interview:Satoru Matsuura
Arovane11年振りの来日公演によせて ―永遠の長さを知るサウンドデザイナー(PART2)
【来日公演情報】Loscil / Arovane Japan Tour 2014
OPEN/START 22:00
[LIVE]
Loscil(Kranky)/ Arovane(n5MD)/ Ametsub (nothings66) / Eadonmm (Day Tripper Records/IdleMoments) + [VJ:Tatsuya Fujimoto]
[DJ] Lady Citizen(AN/AY)JOKEI.(SOLARIS/INCIDENT)
2014/11/24(月/祝)METRO(KYOTO)
OPEN/START 17:00
[LIVE] Loscil(Kranky)/ Arovane(n5MD)/ Ametsub (nothings66)
[DJ] Lady Citizen(AN/AY)/ Tatsuya Shimada (night cruising)
2014/11/26(水) at WWW(TOKYO)
OPEN/START 18:00
[LIVE]
Loscil(Kranky)/ Arovane(n5MD)/ Ametsub (nothings66)
[DJ]Daito Manabe(Rhizomatiks)