既存のスタイルを丁寧にトレースしさせすれば、「何となくできてしまう」楽曲と、そこはかとなく漂う「個性のようなもの」。アマチュアリズムがもたらす自由奔放さは今も昔も大好きだけど、明確な作り手の意図や技術、世界観を置き去りにしたイージーオペレーションのなれの果には作品の均質化とその飽和が待っているような気がして。そんな時代にあってなお印象に強く残るのは「音楽が降りてきている」人たち。一人で全てをコントロールする人、様々な分野のプロを結集して作る人、制作予算や演奏技術も含めその取り組み方に個別の差異はあれど、自分にとって深く感動するか否かの分水嶺は、舞い降りたインスピレーションと内的世界の醸成のための道具として既存フレームを取捨選択している人たち。そこに明確な意図が存在している人たちかもしれません。
素晴らしい作品はこの5枚以外にも数えきれないほどあったけど、個人的な音楽史のようなものがあるとすれば、そこに確かな爪痕を残した数々の作品の中から5枚を選びました。
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Justin Timberlake – 20/20 Experience
とにかく圧倒的な完成度。
R&B、HIPHOP、バラードという既存フレームを使いながら、しかもビルボードで1位をとるようなメジャー作品が未だ挑戦的であることに敬服せざるをえない。作品を通してまるで1本の映画を見てるような、映像的で物語性のある作品。
10年後20年後もきっと色褪せない大作。
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Morningdeer – Concert On A Twig
ハンガリー在住のシンガーソングライター、マルチ楽器奏者。
アヴァンポップの系譜としてその雑食性や即興性を捉えることができるが、根底に流れるしっかりとしたジャズの素養と優美なボーカルが、作品全体に包み込まれるような安堵感を与えている。
溢れ出る数々のアイデアを見事にまとめあげるバランス感覚は秀逸。
こちらも大傑作。
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Toro y Moi – Anything In Return
単なるchillwaveの枠から大きく幅を拡げ、彼の表現力を思う存分実感できる。
ソウルやファンク、R&Bといった地に足ついたブラックミュージックのエッセンスを織り込みながら、絶妙な浮遊感と温かみのあるトラックが多く、リバイバル的な作品にありがちなレプリカ感のようなものは皆無。「アンダーグラウンドのみが常に革新的だとは思わない」という彼の言葉に頷きたくなる快作。
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Oneohtrix Point Never – R Plus Seven
アルペジオシンセやアンビエント/ドローン、フィールド音や声・クワイアのカットアップとその変調、教会音楽、ミニマルミュージックの援用etc… 要素の一つ一つに目新しさはなく80年代~90年代の総決算のようでありながら、安易なノスタルジーは一切感じない冷たく未来的な作品。
極めて現代的かつ本来的な意味での「サウンドデザイン」、明確に意図された音の配置やシーケンスによって、全く新たな“聴取レイヤー”のようなものを生み出したようにさえ思える凄い作品だと思う。
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スッパマイクロパンチョップ – ピップパップギー
スッパマイクロパンチョップの歌ものニューアルバム。
前述のとおりアマチュアリズムを出発点として「自由で」「個性のある」表現をするアーティストは今やいくらでもいるのかもしれない。でも、スッパマイクロパンチョップが決定的に違うのは「音楽が降りてきている」ことじゃないかと思う。
手持ちの限られた機材やGaragebandで作られた本作は、その環境や技術の制約を一気に忘れさせられる豊潤で濃密なスッパワールドで構成されている。その感動は、おそらくはるかに多くの予算がかかっているであろう上に上げた4枚と比べたって何ら劣るところない。
ちなみにこれ、Amazonなんかでは売っていないので、レコード水越からご購入を。
BISK
音楽家
1995年は21歳の時にベルギーの実験音楽レーベルSubRosaと契約し2000年までの5年間に4枚のフルアルバムをリリースした他、ビル・ラズウェルなど数多くのリミックスアルバムに参加。
2000年に活動を休止した後、2012年夏12年の沈黙を破り新作「MEMORABILIA」をドイツのテクノレーベルShhhhから発表。2013年には広島/東京を拠点とする音楽レーベルNovelSoundsより同アルバムを特典付国内版LPとしてライセンスリリースし、大阪・広島でのリリースツアーを行った。
2014年に6枚目のフルアルバムをリリース予定。現在鋭意制作中。
[HP] http://bisk.jp
[SoundCloud] http://soundcloud.com/aka_bisk