Tomoya Nakaの1st Album「ELEMENTS」がAYからリリース


28歳の作曲家Tomoya Nakaの1st Album「ELEMENTS」がAYよりリリース。
PianoにAnoiceやFilmsでの活動でも知られるRicco Label所属のYuki Murata、MIXエンジニアに同じくRicco LabelのTakahiro Kidoを迎えた16曲のピアノソロアルバムが完成。

Tomoya Naka『ELEMENTS』(AY026)によせて―Aから拡がる成分
文=松浦 達(COOKIE SCENE)

Tomoya Nakaこと、中智彌(なかともや)は広島在住にして、若干28歳の気鋭の作曲家である。多彩なメディアへの曲提供やライヴ活動も目立っていたが、こうしてファースト・ソロ・アルバム『ELEMENTS』が届けられた。彼が作曲はもちろん、コンポーズもおこない、東京をベースに訴求性を高めているレーベル〈Ricco〉からYuki Murata(Anoice,RiLF)がピアノの演奏を担い、そのレーベル・オーナーのTakahiro Kidoがミキシングを担当している。
また、今作のA&R面でのディレクションとプランニングを行なったKatsuyuki Taguchi の存在もあり、東京から電子音楽を主軸に良質な作品を提供し続けている〈AY〉からのリリースとなる。要は、現在進行形の先鋭たち、レーベル間で組み合った試みといえる。

〈AY〉および、〈Ricco〉のアーティストたち、カタログ群から想像は出来るかもしれないが、今作もいわゆる、ポスト・クラシカルに属する要素が強くうかがえる。たとえば、ダスティン・オハロラン、ジャン・フィリップ・コラール・ネヴェン、ヤロン・ヘルマンに通じる繊細さと冒険性が現前しており、また、要所には、アンナ・ローズ・カーターさえも思わせる、上品でたおやかな翳りを帯びたピアノ・タッチからはサイレント・フィルムのような、ざらりとした質感とこまやかな息遣いがかすかに遠く聴こえてくる内容になっている。

そして、饒舌なピアノがふと息を止める瞬間のいとまに、ただ、音は故意の響きを惹起せしめる。
西洋楽理書をひもとけば、ピアノの丁度、中心にあたる鍵盤から出すことができる、一気圧下での一秒間、四百四十回もの空気を揺らせる音は「A」と呼ばれる。日本では、「イ」。Aからアルファベットが拡がってゆく過程が、このアルバム・タイトルたる“Elements”を示唆する気がする。要素、成分そのものということ、と、曲中の音を構成する体系と記号、それらをしたたかにはぐれる側道までを包摂する意味性。
最後には、幽玄にMiho Suzukiのフィメール・ヴォイスも聞こえてくる。曲名は「Requiem」。つまりは、遠い声と、近いピアノをなだめるようなフィーリングを縫いとめた上で、鎮魂のための静謐な祈念のような何かの残映がかすむ。

ポスト・クラシカルという音楽が時おり陥りがちな安易な匿名性の距離を越えてゆくのは、メロディーになりえない無音の差分といえるだろうか。「音が無い」のではなく、そこに「無い音」を置くことで、気が付けば、16曲の時間軸は歴史に垂直に立っている。垂直に立った音の時間軸はいつまでも褪せることなく、軽やかに泳ぐように成分要素表を書き替えてゆくだろう。

この『ELEMENTS』は、聴くたびに思わぬ発見、気付きがある作品であり、自然音やアクシデンタルな雑音、生活音を巻き込みながら成立するように、日常とつながった場所で優しく柔和に、多くの聴取者たる生活者を待っていると願ってやまない。

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